
第3回 山下雅靖さん ホセ・クエルボ ブランドアンバサダー 2011/10
テキーラ最古の蒸留所は、1795年創業の名門クエルボ蒸留所。メキシコから遠く離れた日本でも「ホセ・クエルボ」の名は広く認知され、テキーラといえばまずクエルボのあのスタイリッシュな黄色いラベルを思い浮かべる人も多いだろう。そのクエルボのブランドアンバサダーを長年務め、日本のテキーラ市場を牽引してきたのが山下雅靖さんだ。
山下さんがクエルボのブランドに携わってから今年で9年目になる。就任当初は年間29,000ケースであった販売量が、この9年間でなんと年間70,000ケースにまで伸びた。この倍以上の伸び率はスピリッツ界随一と言われる。こう聞くと、山下さんは筋金入りの仕事人に聞こえるが、実に楽しく、一緒に呑んで面白いイケメン男性である。
山下さんは元々ワインがお好きで、特にブルゴーニュの白、ルイ・ラトゥール社のバタールモンラッシュに特段の思い入れがあったことで広告業界から酒販業界に転身を計り、当時ルイ・ラトゥールを扱っていたレミージャポンの門をたたく。入社後、ワインビジネスに携わる中で、ワインブランドを育てる難しさを痛感、一方、スピリッツは「ブランド」を作るビジネスであり、スピリッツ業界にのめり込んでいったという。この時期、酒販業界全体の再編がはじまり、レミージャポン、マキシアムジャパン、アサヒビールという大きな体制変化の中で、山下さんは変わらずクエルボというブランドを手塩にかけてきた。
山下さんがクエルボのブランドを手がけ始めた2002年、テキーラはカクテルベースに使われるのが主な用途であり、テキーラ市場はシルバーの売上が全体の75%ほどを占めていた。そこにレポサドのショット飲みの楽しさを加えていったのがクエルボだ。図表を見てわかる通り、シルバーの売上はそのままに、レポサドの売上を大きく上積みしている。これは「楽しさ」の提案だと山下さんは言う。音楽、場所、人、この3つが楽しさのキーワードであり、これらを結ぶのがお酒であるという山下さんの考え方は欧米流の上手い演出であるかもしれない。今ではクエルボのレポサドショット飲みは全国的に認知されている。
山下さんはテキーラソムリエの1期生である。常に勉強を怠らない山下さんらしくテキーラソムリエ開始告知と同時に申し込んでこられた。ご本人もおっしゃるように、テキーラソムリエの中でも山下さんはテキーラを「産業」としても見る稀有な存在だ。テキーラは気軽なのに幅広いテイストがあるのも魅力であり、アガベの香りのオリジナリティは他に無いともおっしゃるが、全くその通りである。シルバー、レポサド、そして「1800」の3種とバラエティは魅力的に広い。
テキーラベースのカクテルもどんどん面白くなっているという。確かにバーでマルガリータに出会う機会は増えている。カクテル界でもウォッカやジンからテキーラへの動きも見られる。現在のクエルボの国内販売数は年間7万ケースでホワイトスピリッツ界第3位。第2位はウォッカのスミノフで8万数千ケース、首位はジンのビーフィーターで11万数千ケース。ここでの首位獲得が山下さんの当面の目標だ。応援したくなるではないか。がんばれ、テキーラ!クエルボ!首位は近い。
写真は山下さんに特別にお持ちいただいた、クエルボのニューボトル。底部がより重厚なデザインになり貫禄を増している。発売が楽しみだ。
山下さんが数々のお酒のブランドと付き合ってきてクエルボに思うことは、クエルボは気分が上がる!ということ。確かにテキーラは気分が上がるし、そういう声は圧倒的に多い。先日テキーラソムリエを取得されたEXILEのUSAさんも同じ事を力説されていた。科学的には証明されていないが、経験則として明らかにテキーラは気分が上がる。このクエルボの「楽しさ」を伝えたい!というのが山下さんの願い。それはクエルボで盛り上がって屋外カウンターの上に登ってしまうような山下さんだからこそ出来ることなのであろう。ビバ・クエルボ!!!
第2回 フアン・ゴンザレスさん テキーラ「3 Amigos」生産者 2009/7
私のメキシコ滞在中に大変お世話になっているのが、こちらのファン・ゴンザレスさんだ。テキーラ「3 Amigos (NOM1499)」の生産者であり、アガヴェ栽培の農園主でもある。フアンさんはアガヴェの有機栽培にこだわり続け、テキーラでは2番目となる有機栽培認証を米国農務省とイタリアのビオアグリ双方から受けた。ちなみに1番目は「4 Copas (NOM1457)」で、フアンさんの後に「Casa Noble (NOM1137)」が続いている。
ハイランドにあるフアンさんの広大な畑は見た目から大変美しく、農薬は一切使用していない。その代わりに牧畜を行い牛をアガヴェ畑に放って自由にさせている。牛は雑草をどんどん食べてくれるので草刈りの心配もなければ、糞もいっぱいしてくれて肥料にもなる。しかもアガヴェの葉は剣のように硬くとがっているために牛はアガヴェに近付かない。牧畜の大変さをのぞけばまさに一石二鳥である。他の肥料としてはトウモロコシの芯を撒いているので、畑の土はとうもろこしだらけになっている。
このフアンさんの有機栽培がごく最近大きな注目をあびることになる。ハイランド地方にアガヴェのかび病が広がったからだ。2008年の秋に私が訪れた時は事態は深刻で、ハイランド中のあちこちでかび病で荒れはてた畑が見られた。何年もかけて育ててきたアガヴェが枯れてしまうのはあまりにも大きな打撃だ。少しでもこのかび病にかかったアガヴェは即刻処分するという。しかしフアンさんの畑では1株たりともかび病にはならなかった。ハイランドで有機栽培認証は3 Amigosだけで、役所であるCRTが連日調査に来たという。原因は農薬だった。農薬を使用すると土壌のバクテリアが死に、バクテリアがカビを食べなくなるために起こった大被害だった。フアンさんはこの事件以前から有機栽培の大事さを力説していた。
私がグアダラハラを訪れるといつもとても良くしてくれる。トラックで3時間の道のりを迎えに来ていただき、フアンさん行きつけの夢のように美味いトルティーヤを食べさせてくれるレストランでおごってもらい、ご家族に紹介していただき、テキーラについていろいろ教えてくれる。「これはビジネスになるとかならないとか、金儲けとかの話じゃない。どうしても知って欲しいんだ。」と言ったのが印象的で、有機栽培の大事さを丁寧に説明してくれた。左写真の上は一般的な畑、下はフアンさんの畑。
なぜそこまで親切にしてくれるのか?素晴らしいお人柄の他にもちょっと理由があった。フアンさんは10代から25歳位まで日本人経営の農場で働いていた。農場主は九州出身の方だったという。その頃に有機栽培の基本と大切さを叩きこまれ、生活もとても楽しかったと話す。トラックごと沢に落ちてしまい廃車にしても最後には笑って済ませてくれるような農場主だったが、もう20年以上前にお亡くなりになったという。このような先人の恩恵を私が受けて良いのかとも思うが、こうして発表することこそフアンさんが望んでいることなのかもしれない。
緑提灯運動のように国産品だけにこだわるのも良いが、地球に住んでいる以上もっとも大事なことは食の安全を世界に広げていくことだ。テキーラのような酒は、気候的にも土壌的にも伝統的にもメキシコでなければ作れない酒だから。このページのタイトル画像の3人はフアンさんの畑をきりもりするご一家。とてもいい表情をしている。今年90歳になるフアンさんのお母さんは、自分の畑でトウモロコシを栽培し、家の臼で挽いてトウモロコシの粉「マサ (トルティーヤ粉)」を作っている。香りだけ残し口で溶けて消えてしまうようなトルティーヤだった。お母さんが「毎晩1ショットの3 Amigosは欠かしたことがないわ」とフアンさんを気遣うと「毎晩1ショットにしちゃあ減りが早いな」とボトルを見る皆の笑い声がアガヴェ畑にこだまする夜。六本木の夜とはまた違うテキーラな夜だ。
第1回 フェリー・カデムさん 六本木「AGAVE」 2009/7
「AGAVE」は六本木で10年以上にわたってテキーラバーを続けてきた日本で最大級のテキーラバーである。バックバーには数々のレアなテキーラがきら星のごとく並び見ているだけで心躍る。このAGAVEでマネージャーを長年続けてきたのがフェリー・カデムさんだ。フェリーさんはテキーラに非常に詳しいだけでなく、テキーラのクオリティに関して非常に鋭く正しい批評をする。10年間積み上げてきた舌と感覚のなせる技だろう。フェリーさんのテキーラの話は非常に深く、日本に入ってきた最新のテキーラも必ずチェックしておりいつも感心させられる。
フェリーさんはマルガリータの名人としても知られている。ベースのテキーラは100%アガヴェのテキーラを使用。テキーラ3、ライムジュース1、コアントロー1が黄金比率だという。マルガリータにはフルーツバリエーションが多く、欧米ではかなり一般的なのだが日本ではまだ珍しい存在だ。フェリーさんのフルーツマルガリータは世界の先端を走る人気のある一品。レギュラーメニューとして、ストロベリー、ピーチ、パイナップル、ラズベリー、バナナのマルガリータがあり、季節ごとに旬のエキストラのメニューが加わる。2009年7月時点ではスイカ、メロンがメニューにリストされていた。中でもスイカのマルガリータはフェリーさんのオリジナルで世界初ではないかという事だ。日本の夏を感じさせる一品である。
そんなフェリーさんは、イランのテヘランで育った。フェリーさんのお父様は自家蒸留を行い、炭を使ってフィルタリングするほどのマイスターだった。テヘランではお父様の蒸留酒の美味しさが大変大きな評判を呼び、毎夜友人たちが集ってきたという。イラン革命後、外で酒を呑みにくくなったことをきっかけに、レーズンやゴラーブと呼ばれる小さなリンゴを原料に蒸留を始め、クオリティを求めて2回蒸留を行っていた。そんなカデム家の伝統がAGAVEの素晴らしいテキーラセレクション、そして深い知識やこだわりにはっきりと生きている。
フェリーさんがテヘランで医大生だったころ、お兄様が日本でグラフィックデザインの仕事をしていた。ほんの1年間だけ手伝おうと来日したのをきっかけに日本に定住してしまったという。お名前のFaramarz Khademには、国境を超えるという意味があるそうだ。AGAVEのオープン当初はテキーラの魅力がなかなか理解されず、いろいろな苦労があったという。しかしもともと蒸留酒にこだわるカデム家伝統の血が騒いだか、テキーラの魅力は少しずつ理解され、外国人を中心に広まっていった。人気が上がっていくころには1晩で200杯のマルガリータを一人で振ったこともあるという。
フェリーさんの好きなテキーラを一つ挙げてもらった。「うーん、一つかぁ・・・」と悩みながらOrendain Ollitas のブランコを挙げてくれた。Orendainは70年の歴史を持つ老舗。テキーラバレーならではの香りが素晴らしいという。呑んでみると、なるほどテキーラバレーならではの芯の通った風味で、アガヴェの香りがガツンと来るローランドならではの男らしく辛い100%アガヴェのテキーラだ。Tres Mujeresなどに近い良質でドライな味、まさに10年もの間、毎日テキーラに接してきたフェリーさんならではの行きつく所の味、という印象を受けた。
AGAVEには神戸さんや景田さんらの勉強熱心で優秀なスタッフもおり、フェリーさんを中心に日本のテキーラ文化を背負って立つ存在だ。バーではスタッフにどのようなテキーラが呑みたいか気軽に相談してみるといいだろう。





